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東京地方裁判所 平成5年(ワ)20826号 判決

原告

サンテレホン株式会社

右代表者代表取締役

山西啓司

右訴訟代理人弁護士

中本源太郎

被告

得能祥昭

右訴訟代理人弁護士

竹内寛

被告

秋岡武治

被告

秋岡陽子

主文

一  被告は、原告に対し、連帯して、金五四六万九五三五円及びこれに対する平成五年七月一一日から支払済みまで日歩四銭の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、連帯して、七六一万六一一〇円及びこれに対する平成五年七月一一日から支払済みまで日歩四銭の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、平成元年八月二一日、被告得能祥昭(以下「被告得能」という。)との間で、その所有にかかる別紙物件目録記載の物件(以下「本件リース物件」という。)について、左記の約定でリース契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

リース期間 物件引渡の日から起算して六〇か月

リース料 月額一五万〇八九五円(消費税相当額四三九五円を含む。)

リース料支払方法 初回は現金、第二回以降は毎月二七日銀行振込の方法により支払う。

規定損害金 本件契約がリース期間中に解約となったとき(被告得能の債務不履行を理由として原告が契約を解除した場合を含む。)は、被告得能は別表記載の規定損害金を支払う。

契約解除 被告得能が本件契約に定められた条項に違反したときは、原告は、何らの催告を要することなく直ちに契約を解除することができる。

遅延損害金 日歩四銭

2  被告秋岡武治及び同秋岡陽子は、平成元年九月二七日、原告に対し、本件契約に基づく被告得能の債務につき連帯保証した。

3  原告は、同年九月二五日、被告得能に対し、本件リース物件を引き渡した。

4  被告得能は、しばしばリース料の支払を遅滞し、滞納額を累積させており、平成五年に入ってからは全く支払をしない。

5  そこで、原告は、平成五年七月一〇日到達の内容証明郵便により、被告得能に対し本件契約を解除する旨の意思表示をした。

6  右解除により、原告は、被告得能に対し、次のとおり、合計七六一万六一一〇円の債権を有することになり、同時に連帯保証契約に基づき、被告秋岡武治及び同秋岡陽子に対し同額の債権を有することになった。

未払リース料 二七一万六一一〇円

(平成三年一二月分から平成五年五月分の一八回分の未払リース料合計額)

規定損害金 四九〇万円(別表記載のとおり、四年以内解約の場合)

7  よって、原告は、被告らに対し、前項記載の七六一万六一一〇円及びこれに対する契約解除の日の翌日である平成五年七月一一日から支払済みまで日歩四銭の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は、規定損害金に関する約定を否認し、その余の事実は契約締結日を除いて認める。

2  同2の事実は、契約締結日を除いて認める。

3  同3の事実は否認する。本件リース物件は、ポリ袋を製造する自動製袋機であるが、これは、被告得能の注文した、スーパーマーケットのレジ用の袋の加工と普通のポリ袋の加工の両方ができる兼用機ではなく、普通のポリ袋しか加工できないものであり、これを納入した西和産業株式会社(当時有限会社西日本エンジニアリング、以下「訴外会社」という。)は、これを兼用機に改造して引き渡すことを約束した。同会社は改造を行わなかったから、本件リース物件の引渡は完了していない。

4  同4の事実は否認する。

5  同5の事実のうち、内容証明郵便が到達したことは認め、その余は否認する。訴外会社が本件リース物件の改造を行わない以上、原告が改造、修補を行う義務があり、これを怠ったまま契約解除の意思表示をしても、解除の効力は発生しない。

6  同6の事実は否認する。

三  抗弁

1  錯誤

本件リース物件は、被告得能が注文したものと異なっており、前記のとおり、その後の改造が行われない以上、高々四四五万円の価値を有するにすぎないところ、本件契約は、本件リース物件を七〇〇万円の価値を有することを前提として締結されており、これは契約の目的物について要素の錯誤があることになるから無効である。

2  信義則違反

(一) 本件規定損害金の不当性

規定損害金は、リース期間の満了前において、リース物件が滅失した場合のリース業者の損害を填補することを目的とするものであり、リース期間満了前の特定の時点で残リース料及び期間満了時の物件価額を評価するという趣旨のものである。したがって、規定損害金は、残リース料及び期間満了時の物件の残存価額の合計額を上回るものではない。

本件においても、規定損害金は物件滅失の際に支払うものと定められ(契約書第一九条第二項)、これを契約解除の場合にも準用している(同第二三条第二項)のであり、かつ、リース期間満了時の規定損害金は〇円と定められているのであるから、本件リース物件のリース期間満了時の残存価額はないということになる。したがって、本件において、原告にリース料総額以上の金員を取得させる必要はない。また、本件の規定損害金は、物件の価額と比較して、支払時期が三六回を超えた以降の金額が異常に高く設定されており、極めて不当である。

したがって、原告の請求額のうち、リース料総額を超える金額については、信義則ないし相殺の法理によって減縮されるべきであり、被告らにその部分についての支払義務はない。

(二) 本件規定損害金が、損害賠償額の予定であったとしても、次のとおり、原告の請求額は過大であり、損害賠償額の予定としての合理的は範囲を逸脱している。

本件リース料総額は九〇五万三七〇〇円であるところ、被告の既払額は四〇七万四一六五円、未払額は二七一万六一一〇円であり、規定損害金の四九〇万円を加えると、請求額は一一六九万〇二七五円となって、リース料総額を二六三万六五七五円も上回ることになり、著しく不当である。

また、残リース料については、信義則上、中間利息(未経過利息)を控除すべきである。

(三) 原告は、解除の意思表示後には本件リース物件を引き取って処分し、債権保全の措置を執ることができたのにこれを怠ったのであるから、過失相殺の法理を類推して右解除時点での本件リース物件の価額である一一六万四六二五円を控除すべきである。

3  相殺

本件リース物件は、被告得能が注文したものとは異なり、また、瑕疵のあるものであったから、被告得能は、契約の目的を達することができず、その結果、原告の請求額と同額の損害を蒙った。

したがって、被告得能は、本件リース物件の所有者、賃貸人としての原告に対し損害賠償請求権を有するところ、本件第一一回口頭弁論期日において、原告に対し、右損害賠償債権をもって原告の請求債権と対当額において相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は否認する。原告は、本件リース物件につき被告得能が訴外会社との間で合意した金額について、希望した額でリースを組んだにすぎず、本件リース物件の価額についての被告の錯誤は、原告に対する抗弁たりえない。

2  同2は争う。

(一) リース契約における規定損害金の性格は、契約期間中の物件の滅失に伴う貸主の損失や得べかりし利益の補償のためのものであり、同時に、民法四二〇条の損害賠償額の予定であって、規定損害金の金額と物件の残存価額がリース料の総額を上回ってはならないというわけではなく、公序良俗に反しない限り、当事者間で自由に取り決めることができるものである。

(二) 本件規定損害金は、次の点を考慮して決められており、単に既払額、未払額、規定損害金の合計額がリース料総額を二六三万余円上回っているからといって、本件規定損害金の約定が著しく不当であるとはいえない。

(1) リース物件は、特定の借主のための特別の使用目的に供されるもので汎用性がないこと、使用開始から時間が経過すればするほどその価値が下がり、簿価を下回り、あるいは全く無価値となって金銭的回収が不可能となることが多いため、そのリスクを考慮し、時間が経過するに従い、残リース料に比べて規定損害金の金額は大きくなるように設定されているのであり、これには合理的は理由がある。

(2) 規定損害金は、ユーザーによる他の金利の安い金融機関への借り換えなど、安易な途中解約を制限するためのペナルティ分や、また、ユーザーが契約違反をした場合における事実上、法律上の手段により債権及び物件の回収を図るための諸経費分も含まれている。

なお、本件リース物件については、リース期間満了時の物件価額は四九万円とされていたものであり、再リースも予定されていた。

さらに、本件においてはリースの基本期間が経過してしまっているから、中間利息(未経過利息)を控除する必要はない。

(三) 被告得能は契約解除の効力を争っており、原告に本件リース物件の引取りを要求したこともない。また、原告には本件リース物件の引取り義務はない。

3  同3は、その主張の意思表示があったことは認めるが、その余は不知ないし否認する。原告は、本件リース物件の引渡後において、これの改造及び瑕疵修補の義務を負っていないから、契約上の債務不履行責任は発生せず、損害賠償義務はない。

第三  当裁判所の判断

一  請求原因について

1  請求原因1の事実は、契約締結日及び規定損害金についての約定を除き、当事者間に争いがない。

甲第一号証、第五、第六号証の各一によれば、契約書の日付けは平成元年八月二一日付けとなっているが、現実に、被告得能が同契約書に署名捺印をしたのは同年九月二五日であること、同契約書第二一条には、借主が本契約期間中にこの契約を解約した場合は貸主に対し別表記載の規定損害金を支払うべき旨、同第二三条第二項には、借主が本契約の各条項に違反したことにより貸主が本契約を解除(同第二二条)した場合にも、借主は規定損害金を支払うべき旨が、それぞれ定められていることが認められる。

そうすると、本件契約は、同年九月二五日、原告主張の内容により締結されたものと認められる。

2  甲第一号証、第五号証の一、二、第六号証の一ないし三によれば、請求原因2の、被告秋岡武治及び同秋岡陽子が、同年九月二七日、原告に対し、本件契約に基づく被告得能の債務につき連帯保証した事実を認めることができる。

3  請求原因3の事実については、甲第一号証によれば、被告得能は、平成元年九月二五日本件契約書第六条に従って本件リース物件の引渡を受け、リース物件引渡確認書に署名捺印していることが認められる。

この点、被告得能は、訴外会社から納入された本件リース物件は、注文したものと異なるものであり、訴外会社はこれを改造した上で引き渡す旨を約束しながらその約束を守らないから引渡は完了していない旨主張する。

しかしながら、被告得能は、前記のリース物件引渡確認書に署名捺印しているのであり、証人永峰和典の証言(以下「永峰証言」という。)によれば、その際、原告に対しては何らの留保もしていなかったことが認められる。さらに、本件契約は、後に判断するように、いわゆるファイナンスリース契約であり、一旦リース物件の引渡があった後は、契約者はその瑕疵についてこれをリース業者に主張できないものであり、本件においても契約書第六条第二項、第三項にその旨が定められているのであるから、改造ないし修補の約束不履行は、これを訴外会社に主張するのは格別、原告に対する関係ではこれを主張することはできず、また、遡って引渡がなかったことを主張することもできないものというべきである。

4  甲第二号証、永峰証言によれば、請求原因4の事実を認めることができる。

5  請求原因5の事実については、本件契約を解除する旨の内容証明郵便が被告得能に到達したことは当事者間に争いがない。

被告得能は、解除の効力を争うが、その主張するところは、前記3と同様、訴外会社に対して主張すべき事由であり、原告に本件リース物件の改造、修補をすべき義務はないから、その主張は失当である。

6  請求原因6については、甲第一、第二号証によれば、原告が本件契約を解除した時点で支払期日が到来している未払リース料が二七一万六一一〇円であったこと、本件契約により定められている規定損害金が別表により四九〇万円となることが認められる。

7  以下のとおり、請求原因事実は、いずれもこれを認めることができる。

二  次に、抗弁事実について判断する。

1  錯誤について

甲第四号証、乙第一ないし第三号証、永峰証言、証人井上義光の証言、被告得能本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告得能は、自動製袋機を導入しようと考え、訴外会社に、スーパーマーケットのレジ用の袋の加工と普通のポリ袋の加工の両方ができる兼用機を代金七〇〇万円で注文し、その代金の支払のために訴外会社の紹介により原告からリースを受けることにしたこと、原告は、被告得能の申込みに応じて、同被告の選定した本件リース物件について、必要額のリースを組むことにし、請求原因1記載のとおり本件契約を締結したこと、しかしながら、訴外会社から被告得能に納入されたのは兼用機ではなく、普通のポリ袋しか加工できない機械であったこと、この機械については、訴外会社から兼用機に改造するので受領して欲しいと言われ、被告得能においてこれを了承して引渡を受けたこと、その後、訴外会社は本件リース物件について、被告得能の要求する改造を行っていないこと、また、本件リース物件は、三か月後にポリエチレンの袋の耳切れを起こしたり、シール切れを起こすなどの故障が発生したこと、その後も静電気の故障、サイクルタイマーの故障などが発生したが、訴外会社がこれを十分に修理していないことが認められる。

ところで、前認定の請求原因1の事実及び甲第一号証によれば、本件契約は、いわゆるファイナンスリース契約であり、原告は、被告得能と訴外会社との間で合意された本件リース物件の売買に当たり、被告得能と本件契約を結ぶことにより、同被告に対し買受資金を融資したのと同じ効果を発生させたものであり、さらに、前認定の事実、永峰証言、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件リース物件の選定には全く関与せず、被告得能の希望する物件につき希望する金額でリースを組んだにすぎず、本件契約の締結時において、その対象となる目的物については、その価額も含め被告得能の指定どおりにしたものであるから、この点につき本件契約当事者間に錯誤が存在する余地はないものというべきである。

被告得能の主張は、単に、同被告が納入を受けた物件が同被告の前提としていた性能を有していなかったということにすぎず、しかも、被告得能は、納入の段階で受領を拒否し、引渡確認書への署名捺印をしないことにより、リースを開始しないこともできたのに、これをせず、訴外会社が改造の約束をしたことから、これに期待して引渡を受けたものであり、したがって、後に訴外会社がその約束を履行しなかったからといって、本件契約について錯誤による無効を主張することはできないものというべきである。

2  信義則違反について

(一) 甲第一号証の本件契約に係る契約書には、第二一条に、被告得能において本件契約締結後本件リース物件引渡まで及び本件契約期間中に契約を解約した場合は、同被告は原告に対し別表記載の規定損害金を支払うべきことが規定されており、また、本件リース物件が盗難、滅失、損傷したことにより契約が終了した場合に、同被告は第二一条の規定損害金を支払うべきこと(第一九条第二項)、及び、同被告が本件契約の諸条項に違反し、契約を解除された場合にも、同被告は本件リース物件を返還するとともに、第二一条に定める規定損害金を支払うべきこと(第二三条、第二二条)が定められている。そして、右規定損害金は、弁論の全趣旨によれば、別表のような計算式により算定されているものであり、当初一年以内の規定損害金を、本件リース物件仕入価額の一一五パーセントの八〇五万円に設定した上、これがその後一年毎に仕入価額の一五パーセントずつ低減するように段階的に計算式が定められていることが認められる。

これらの規定の趣旨、内容及び本件契約がファイナンスリース契約であることからすると、本件規定損害金は、物件が滅失したことにより契約が終了した場合及び契約が中途で解除された場合(以下二つの場合を合わせて「契約終了」という。)に、原告が本件契約において蒙ることのある損害(得べかりし利益を喪失することも含む。)を補償するために定められているものと解され、また、これは、損害賠償額の予定としての意味も有するものと理解される。

(二) このような規定損害金については、これが損害賠償額の予定としての性格も有することから、その算定方法及びこれにより算定された損害金額は契約当事者間で合意された以上、原則として有効であると考えられるが、本件契約のファイナンスリース契約としての性格に鑑みると、規定損害金の算定方法は、前記原告のために補償されるべき金額を確保することを主眼として定められるべきであり、これを大幅に超過し、リース期間が満了した場合と比較して、リース業者に過大な利益を得させ、著しく不公平となるような場合には、信義則ないし公平の原則上、右損害金の額を減額することができると解するのが相当である。

(三) 本件契約において、契約満了時に原告が取得すべきものは、総リース料(毎月の支払リース料の総計)と本件リース物件又はその予定された残存価額であると考えられる。そして、本件契約の総リース料は九〇五万三七〇〇円であり(甲第一、第二号証)、本件リース物件の予定残存価額は四九万円と評価されている(弁論の全趣旨)ことが認められる。したがって、本件契約がリース期間の途中で終了した場合においても、原告が取得すべき価額は、総リース料から既払のリース料を控除した残リース料及び本件リース物件の残存価額四九万円の合計額(以下これらを「残リース料等」という。)が基本となり、これを上回るものではないというべきである。

(四) ところで、本件規定損害金は、前認定のとおり、別表のような計算式により算定されているものであるところ、当初一年以内の解約の場合の規定損害金は八〇五万円と設定されており、これは、期首のころは規定損害金より残リース料等(開始直後を想定すると、総リース料九〇五万三七〇〇円と本件リース物件の残存価額の四九万円の合計九五四万三七〇〇円となる。)の方が多いが、期末ころには規定損害金が残リース料等(期末時点では、総リース料から支払リース料一二か月分を引き、四九万円を加えると七七三万二九六〇円となる。以下、便宜、期首期末の時点で同様に計算する。)を上回る額になる。この点は、二年以内の解約の場合の規定損害金七〇〇万円についても同様である。

このように、一年間の期首のころと期末のころとで残リース料等との差額がマイナス、プラスと変化すること自体は、本件契約が一年ごとに規定損害金を算定する方式を採用している以上当然であり、かつ、計算の簡便さなどから、このような規定損害金の定め方を採用することも自然であるというべきであるから、問題とはならない。

しかしながら、三年以内の解約の場合の規定損害金五九五万円については、期首においては残リース料等(五九二万二二二〇円)とほぼ等しい額であるものの、期末では残リース料等が四一一万一四八〇円となるから、一年分のリース料にほぼ匹敵する額の差(一八三万八五二〇円)が生じている。さらに、四年以内の解約の場合の規定損害金四九〇万円については、期首で既に残リース料等(四一一万一四八〇円)より約八〇万円上回り、期末においては残リース料等(二三〇万〇七四〇円)を約二六〇万円上回ることになる。五年以内の解約の場合の規定損害金の三八五万円については、この差がさらに拡大することになる。

そうすると、被告得能の主張するように、三年(三六回)を越えた以後の規定損害金の定め方は、前記基本とすべき残リース料等を超過することになり、公平を欠くものといわざるを得ない。

(五) 原告は、規定損害金の計算式は、本件リース物件が汎用性がなく、その価額は使用開始から時間が経過すればするほどその価値が下がり、簿価を下回り、あるいは全く無価値となって金銭的な回収が不可能となることが多いことに鑑みて、期間が経過するに従い、残リース料に比べて規定損害金の額を大きく設定したものであり、また、金利の差を考慮しての他の金融機関への借り換えなど安易な途中解約を防ぐためのペナルティ分や、契約違反の場合などにおける債権や物件回収のための諸経費分も考慮に入れて設定しているもので、合理的であると主張する。

右前段については、確かに、物件価額は、期間経過とともに簿価よりも大きく低減するものと考えられるが、減価の割合は、リース期間の当初に大きく、期間経過につれ小さくなるものと考えられる上、原告としては、期間満了時において、その価値の低減したリース物件の返還を受け又はその残存価額を取得し、リース料総額を取得しているのが本来の契約の趣旨であるはずであるから、契約がリース期間の途中で終了した場合に、その時期のいかんにかかわらず、原告が残リース料等を右契約終了時に一括して取得することができれば、原告には原則として損害はないと考えられ、かつ、原告にそれ以上の利益を取得させる理由はないものというべきである。

さらに、後段については、途中解約しても残リース料等を即時一括して支払う義務が残ることになれば、通常あえて途中解約することはないと考えられること(未経過利息の控除との関係は後述する。)、及び、規定損害金の支払規定が天災地変その他不可抗力によるリース物件の滅失の場合にも適用されるものであること(契約書第一九条)、物件の撤去、返還のための経費は別途被告得能の負担とされていること(同第二四条)、さらに、契約違反により必要となった費用についても別途被告得能が負担すべきものと定められていること(同第二六条)からすると、ペナルティ的な面を重視するのは相当ではなく、ペナルティ分や諸経費を含むとの原告の主張は採用することができない。

したがって、本件規定損害金の計算式において、リース期間の後半、特に四年以内解約、五年以内解約の場合において、規定損害金の額と残リース料等との乖離が大きくなっていることについては、特に合理的は理由は見当たらないというべきである。

(六)  本件で適用される規定損害金は、前認定のとおり、本件契約が原告により解除されたのが平成五年七月一〇日であるから、四年以内の解約の場合に該当し、その額は四九〇万円となることが認められ、さらに、甲第二号証、弁論の全趣旨によれば、右解除時点における残リース料は一五回分に当たる二二六万三四二五円と本件リース物件の残存価額の四九万円の合計二七五万三四二五円となることが認められるが、規定損害金の四九〇万円は、この金額を大きく上回るものである。この差額二一四万六五七五円は、残リース料等と対比して多額であり、かつ、前認定の本件リース物件が当初から瑕疵があり、その後の故障も多く、それらが修復されないままであったこと(ただし、これが原告に対して主張できないことは、既に判断したとおりである。)など本件に表れた事情を考慮すると、右規定損害金額をそのまま被告らに支払わせることは、原告にリース期間が満了した場合と比較して過大な利益を得させ(総リース料自体の中に原告の利益分は既に加算されている。)、著しく不公平な結果を生じさせるものというべきである。

したがって、本件においては、信義則ないし公平の原則から、被告らは、規定損害金四九〇万円と残リース料等との差額二一四万六五七五円については支払義務を負わないものというべきである。なお、減額計算を行うに当たっては、規定損害金の計算式が採用できない以上、契約終了時点における残リース料等を基準とするのが相当である。

(七) ところで、被告得能は、残リース料の計算に当たり、中間利息(未経過利息)を控除すべきであると主張する。確かに、純粋に残リース料の即時弁済額を考える場合、未経過利息を控除することが公平であるといえるが、本件においては、前認定のとおり、契約終了時に原告が取得すべき価額については、損害賠償額の予定としての性格を有する規定損害金の支払という方法が採用されているのであり、かつ、前記のとおり、原告の主張によれば、規定損害金についてはユーザーによる他の金融機関への借り換えを防ぐという目的もあるというのであるから、未経過利息を控除すると、右目的に沿わないおそれが生じることも考えられ、残リース料について、契約終了時にその全額の一括支払をさせることも、規定損害金の定め方として不当であるとまではいえない。したがって、本件においては、規定損害金から控除すべき金額の算定に当たり、未経過利息の控除まではする必要がないものと解する。

(八) 次に、被告得能は、原告は解除の時点で本件リース物件を引き取り、処分することができたから、その時点での本件リース物件の簿価による価額である一一六万四六二五円を控除すべきであると主張する。

しかしながら、本件リース物件は、本件契約のファイナンスリースとしての金融的側面から考えると、リース料の債権の全部又は一部の回収を確保するための担保的な機能を有するといえるものであるから、解除時に本件リース物件を引き上げるかどうかは、契約者である被告得能からの明示の引取りの催告及び現実の提供がない限り、リース業者である原告の意思に任されており、自らこれを引き取った上、その価額の精算をすべき義務まではないというべきである。

別表規定損害金

期間

金額

計算式

締結後引渡まで及び

1年以内解約の場合

805万円

仕入価額(取得価額)

700万円×115%

2年以内解約の場合

700万円

月レート

700万円×{125%-(2.0928%×12)}≒25%

3年以内解約の場合

595万円

700万円×{135%-(2.0928%×24)}≒50%

4年以内解約の場合

490万円

700万円×{145%-(2.0928%×36)}≒75%

5年以内解約の場合

385万円

700万円×{155%-(2.0928%×48)}≒100%

ただし、被告得能において、明示の引取りの催告及び現実の提供があったときは、原告は、その所有権を放棄するか(ファイナンスリースとしての性格から、これも許されると解される。)、物件を引き取った上、その価額を評価し、あるいは処分して、残存価額を超える分については一定の清算をすべき義務が発生すると考えられる。

本件においては、乙第一一号証には、被告得能が本件リース物件の返還を申し出たが原告から拒否されたとの記載部分があるが、乙第一〇号証の記載に照らし、これをそのまま信用することはできず、本件においてその他被告得能の右主張を裏付ける客観的証拠はない(現実の提供があったことも認めることができない。)から、未だその主張事実を認めることはできない。

なお、弁論の全趣旨によれば、本件リース物件は、原告に返還されておらず、現在では原告が所有権を放棄し、その引渡を請求していない(当初引渡を請求していたが、取り下げた。)ことが認められるから、本件リース物件の価額についての清算は要しないものというべきである。

3  相殺の主張について

被告得能の、本件リース物件の瑕疵を理由とする相殺の主張は、先に判断したとおり、これを原告に対して主張することはできないから理由がないことに帰する。

三  以上の次第で、被告らは、原告に対し、連帯して、未払リース料二七一万六一一〇円と前記規定損害金のうち二七五万三四二五円の合計五四六万九五三五円の支払義務があるというべきである。

第四  結論

よって、原告の請求は、被告らに対し、連帯して、金五四六万九五三五円及びこれに対する契約解除の日の翌日である平成五年七月一一日から支払済みまで日歩四銭の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官山﨑恒)

別紙リース物件目録

一、自動製袋機 NDR―七〇〇

一台

但し、製造番号八九〇九〇四号

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